淫狼の生贄 第25回 女弁護士再び(1)
恵須市の由緒ある寺の茶室を借りて開いている茶道教室から戻った野川怜子は、自宅の前で裾をさばいてタクシーを降りると、玄関の鍵を取り出そうと和装用の小さなバッグを開けた。ちょうどそれを待っていたかのようにスマホの着メロが鳴った。カバーを開いてみると、死亡した夫の借金の交渉をしてもらっている弁護士の丸茂早紀からであった。
「野川ですが・・・」
相手が早紀なので怜子は安心して電話に出た。
「今レモンローンに来ているのですが・・・」
「はい、何か」
レモンローンというのは夫が何に使ったのか分からない金を借りていた闇金融業者である。借金ばかりの夫の遺産は、早紀の手を借りて相続放棄の手続きをし、裁判所からも認められていた。しかし、レモンローンだけは執拗に返済を迫ってきており、早紀が交渉を進めてくれているはずであった。
「やっとレモンローンとも纏まりそうなのですが・・・それで、一度奥様にもこちらに来ていただきたいと」
「私が行っても何も出来ないと思うけど」
「代理人だけでなく、奥様も顔を出して貰えればそれで終わりにすると・・・」
「そうね、先生にばかりご苦労させてしまって。ちょうどお教室から帰ったところだから、着替えて出かけます。確か、最近出来たホテルの隣のビルでしたね」
「ええ、でもお迎えに行くとか・・・」
早紀の話が終わらないうちに、怜子の後ろに大型の黒い乗用車が止まって、後部座席から男が出てきた。
「奥さん、弁護士さんからの話を聞いたでしょう。お迎えにきましたよ」
「えっ」
突然声を掛けられてびっくりして怜子は振り向いた。
「そのままでいいから一緒にきてもらいましょうか」
「でも・・・」
「先生はお待ちかねだ、早くしてもらおうか」
背中を押されるようにリアシートに押し込められた。男も後から乗り込んでくる。
「いいぞ、出せ」
運転席の男に声を掛ける。車は滑るように走り出した。
隣に座った男は、怜子にのしかかるようにすると、素早く怜子の口と鼻を湿った布で覆った。
怜子は知らなかったが、男は蒔田で、運転しているのは並木である。
「女子大生も良かったが、熟れた女もいいな」
甘ったるい臭いのガスを吸い込んで意識が薄れていく怜子の耳に、男の呟いた言葉が残った。
怜子はまるで沼の底から浮かび上がってくるような重い頭で、徐々に目覚めてきた。それでも頭の芯に僅かな痛みが残っている。
両腕を万歳したように吊られているようだ。そんな格好で壁に寄りかかっている。
霧が晴れるように、目の前がはっきりしてきた。
コンクリートがむき出しの壁、フローリングの床。
怜子の両手首には革枷が巻きつけられて、コンクリートの壁に打ち込まれている金属のリングに、Y字型に鎖でつながれて立たされていた。夏用の絽の袖が捲くれて、真っ白い腕が肩口まで露になっている。
壁には窓も無い。天井から蛍光灯の光が降り注いでいるだけである。
それほど大きな部屋ではない。強いて比較すれば学校の教室くらいだろうか。
目の前にベッドがある。ちょうど部屋の真ん中辺りだ。その上に白いものが横たわって蠢いていた。
怜子はやっと焦点の合った目でそれを見詰める。
「丸茂先生!」
その白いものは素裸にされた弁護士の早紀だった。
「ウウ・・・・」
早紀の口は革の猿轡で覆われている。言葉が出せず、ただ呻くだけである。
さらに両腕を手首から二の腕まで一つにして、後手に袋状の革枷で包まれて、革紐で上から下まで編み上げられて厳重に止められている。これでは、両腕が一本の棒になったように、曲げることはおろか、ほとんど動かすことも出来ない。さらに両足首にも革枷がはめられ、その間を短い鎖でつながれていた。
「ウウ、ウウウ・・・」
怜子の声に、早紀は不自由な体を丸めて、出来るだけ小さくなろうとしているようだが、反ってそれが痛々しく映る。
「やっとお目覚めのようだな、弁護士先生も我々も随分待たされたよ」
怜子の左手にあるドアが開いて男が入ってきた。
「あなたは・・・・・・西片さん」
「ほう、覚えていてくれたか。お父さんがご健在だった頃は時々はお目にかかってたが」
西片善司、玲子の父親の山川浅治郎が生きていたころは西片建設の専務か常務だったはずである。もうかれこれ10年くらい昔の話である。その頃、すでに五十を越えていいた。だから今は六十台も半ば近くのはずだが、とてもそんな齢には見えない。肌の色艶もいいし、たるみも皺も少ない。ただ、どうしても下半身が太くなるのは避けられなかったらしいが、それも貫禄に見える。

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「野川ですが・・・」
相手が早紀なので怜子は安心して電話に出た。
「今レモンローンに来ているのですが・・・」
「はい、何か」
レモンローンというのは夫が何に使ったのか分からない金を借りていた闇金融業者である。借金ばかりの夫の遺産は、早紀の手を借りて相続放棄の手続きをし、裁判所からも認められていた。しかし、レモンローンだけは執拗に返済を迫ってきており、早紀が交渉を進めてくれているはずであった。
「やっとレモンローンとも纏まりそうなのですが・・・それで、一度奥様にもこちらに来ていただきたいと」
「私が行っても何も出来ないと思うけど」
「代理人だけでなく、奥様も顔を出して貰えればそれで終わりにすると・・・」
「そうね、先生にばかりご苦労させてしまって。ちょうどお教室から帰ったところだから、着替えて出かけます。確か、最近出来たホテルの隣のビルでしたね」
「ええ、でもお迎えに行くとか・・・」
早紀の話が終わらないうちに、怜子の後ろに大型の黒い乗用車が止まって、後部座席から男が出てきた。
「奥さん、弁護士さんからの話を聞いたでしょう。お迎えにきましたよ」
「えっ」
突然声を掛けられてびっくりして怜子は振り向いた。
「そのままでいいから一緒にきてもらいましょうか」
「でも・・・」
「先生はお待ちかねだ、早くしてもらおうか」
背中を押されるようにリアシートに押し込められた。男も後から乗り込んでくる。
「いいぞ、出せ」
運転席の男に声を掛ける。車は滑るように走り出した。
隣に座った男は、怜子にのしかかるようにすると、素早く怜子の口と鼻を湿った布で覆った。
怜子は知らなかったが、男は蒔田で、運転しているのは並木である。
「女子大生も良かったが、熟れた女もいいな」
甘ったるい臭いのガスを吸い込んで意識が薄れていく怜子の耳に、男の呟いた言葉が残った。
怜子はまるで沼の底から浮かび上がってくるような重い頭で、徐々に目覚めてきた。それでも頭の芯に僅かな痛みが残っている。
両腕を万歳したように吊られているようだ。そんな格好で壁に寄りかかっている。
霧が晴れるように、目の前がはっきりしてきた。
コンクリートがむき出しの壁、フローリングの床。
怜子の両手首には革枷が巻きつけられて、コンクリートの壁に打ち込まれている金属のリングに、Y字型に鎖でつながれて立たされていた。夏用の絽の袖が捲くれて、真っ白い腕が肩口まで露になっている。
壁には窓も無い。天井から蛍光灯の光が降り注いでいるだけである。
それほど大きな部屋ではない。強いて比較すれば学校の教室くらいだろうか。
目の前にベッドがある。ちょうど部屋の真ん中辺りだ。その上に白いものが横たわって蠢いていた。
怜子はやっと焦点の合った目でそれを見詰める。
「丸茂先生!」
その白いものは素裸にされた弁護士の早紀だった。
「ウウ・・・・」
早紀の口は革の猿轡で覆われている。言葉が出せず、ただ呻くだけである。
さらに両腕を手首から二の腕まで一つにして、後手に袋状の革枷で包まれて、革紐で上から下まで編み上げられて厳重に止められている。これでは、両腕が一本の棒になったように、曲げることはおろか、ほとんど動かすことも出来ない。さらに両足首にも革枷がはめられ、その間を短い鎖でつながれていた。
「ウウ、ウウウ・・・」
怜子の声に、早紀は不自由な体を丸めて、出来るだけ小さくなろうとしているようだが、反ってそれが痛々しく映る。
「やっとお目覚めのようだな、弁護士先生も我々も随分待たされたよ」
怜子の左手にあるドアが開いて男が入ってきた。
「あなたは・・・・・・西片さん」
「ほう、覚えていてくれたか。お父さんがご健在だった頃は時々はお目にかかってたが」
西片善司、玲子の父親の山川浅治郎が生きていたころは西片建設の専務か常務だったはずである。もうかれこれ10年くらい昔の話である。その頃、すでに五十を越えていいた。だから今は六十台も半ば近くのはずだが、とてもそんな齢には見えない。肌の色艶もいいし、たるみも皺も少ない。ただ、どうしても下半身が太くなるのは避けられなかったらしいが、それも貫禄に見える。

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