淫狼の生贄 第3回 女弁護士(3)

蒔田の合図があったのか、突然、早紀に向けて数条のスポットライトが当てられた。暗い会場の中に、くっきりと早紀だけが浮き上がる。
正面はもちろんのこと、上からも、左右からも、さらに後ろからも･･･そのスポットライトで、会場もやや明るくはなったが、逆に早紀からは眩しくて全く見えなくなってしまった。

｢では、最初はやはり裸になってもらいましょうか。この弁護士さんを一枚ずつ剥いでもらいます。私達がお手伝いしますので、どなたかお一人。｣
蒔田の声に、オーという声を上げて二人の黒坊主が立ち上がった。
｢お二人ですか。抽選ですね。ロッカーの番号は？｣
｢俺は２番だ｣
｢私は５番かな｣
｢では、抽選機に2と5の玉を入れます。どなたか他の方が抽選器を廻してください｣
福引などに使う回転式の抽選器が蒔田の脇のテーブルにある。立ち上がった男とは別の黒坊主が出てきた。蒔田に促されて抽選器を回す。カランと音がして、玉が一つ出た。

｢５番だ｣
抽選器を回した男は、その玉の番号を読み上げると自分の席に戻っていった。それとすれ違いにに、５番の男が蒔田の所へ来る。
｢ご存知のように、これで権利を一回使ったことになります。この後、全員が権利を行使するまで、抽選には加われません。｣
｢そんなことは充分承知だ。それより鋏を｣
｢アア、そうですね｣
蒔田は鋏と言われて、何か分かったように後ろの男に頷いた。

三人の男の内の一人が、壁に作りつけられている棚から、大きな裁ち鋏を取ってきて、５番の黒坊主に渡した。
その鋏を受け取ろうと、マントの合わせ目から5番の男が右の腕を出した。そのためマントの前が割れる。
男はマントの下には何も身に付けていなかった。マントの合わせ目は割合深いが、それでも動くたびに男の裸が生贄に見える。それも生贄を怯えさせる効果を狙っているのか。

｢丸茂先生、私はね、脱がすといっても、ボタンを外して脱がせていくのには余り興味が無い。この鋏で、着ている物を切り裂いてゆく。覚悟はいいかな。｣
５番ははさみを早紀の目の前に突きつけ、開いたり閉じたりする。よく手入れされているらしく、鋏はシャキシャキと乾いた音を立てた。
避けようにも早紀は一本の棒のように立っているほかない。目の前に突きつけられた鋏から目をそらそうとツイッと横を向いた。

｢なかなか気が強そうなお嬢さんだ。そうでなければ詰まらない。それにしてもいいものを着ているな｣
男は早紀の背後に回ると、スーツの裾を左手で摘まんだ。真後ろの裾に鋏を入れると、ザクッと切り裂いた。
｢アゥ、アアゥ………｣
言葉通りに実際にスーツが切られ、思わず早紀が声を出した。だが、ボールギャグに阻まれて言葉にはならない。
５番の持つ鋏はそのままザクザクと、スーツの生地を切り裂いてゆく。そして襟の所まで一筋に裂いてしまった。それだけで、形の良いスーツはもう布切れである。

そのまま今度は左側の脇を、袖の付け根まで鋏で断ち切る。右も同じに･･･
釦は既に外れてしまっているので、スーツは四枚の暖簾のように垂れ下がってしまった。多分名のあるブランド物であったろうが、今はただの襤褸布である。
黒坊主の鋏は、それをさらに細かく切り裂いてゆく。暖簾のよう垂れ下がっていた生地は、紐のようになった。既に下に着ているノースリーブの白いカットソーが完全に剥き出しである。
｢うーん、いいね。隙も無くスーツで身を固めていた弁護士さんが、まるでホームレスだ。｣
｢･･････｣
｢ショックで声も出ないか。これじゃ、せっかくの美貌も台無しだ。｣
どうやら男は裸にすることよりも、女の着ている物を切り裂いてゆくことに快感を感じているようだ。どんなに似合ったものでも、高級なものでも、切り裂かれてしまってはただの布切れである。
女に与える悔しさや、徐々に肌をさらされてゆく恥ずかしさを味わっているようだ。

５番は、今度は切り裂かれて紐のように垂れ下がったスーツの上のほうを、一本ずつ切り離していった。やがて、全てが切り離されて床に落ちてしまうと、七分の袖と襟だけが残った。腕を上に引き伸ばされているので、袖は抜け落ちない。
｢さて、いよいよ上着ともお別れだな。｣
腋の下から鋏を食い込ませると、縦に袖を切ってゆく。片方の袖がはらりと開き、スーツの残骸はもう残った片方の腕に留まるだけである。
その袖にも鋏が入れられる。袖口まですっかり切り裂かれた所で、スーツの全てが早紀の躰から離れてしまった。
その下はノースリーブだったので、手入れの行き届いた腋の下があからさまにされて、スッポトライトの光の中で青白く光る。





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