淫狼の生贄 第1回 女弁護士(1)
｢あんただけかい。野川の女房はどうしたんだ｣
｢鍬形さん、何度も話しているように、野川さんの奥さんは相続を放棄したのよ｣
｢それが、俺達とどういう関係があるんだい｣
｢野川さんが、鍬形さんのやっているレモンローンやらから借金をしていても、奥さんには返す義務はないの｣
｢そんなことは、知ったこっちゃない。野川の野郎が、会社が潰れちゃうからといって泣きついてきたから貸しただけだ｣
｢それも違法な高い金利でね。それだけでもこの貸借は成立しないわ。これ以上脅迫じみたことをしたら、警察に告訴するわよ。大体貸した貸したといったって、違法な利息を考えれば元金はもう返しきってるでしょう｣
｢とんでもない、日々膨らむ一方さ。ほら、ちゃんと借用書に利息も書いてあって、野川の署名と実印が押してあるだろう｣
｢それは、野川さんが亡くなった時に消滅したのよ。奥さんとは関係ないわ｣
レモンローンの社長をやっている鍬形修造でも、目の前に座ってまくし立てている弁護士の丸茂早紀の言うことは分かり過ぎるくらい分かっている。しかし、相続放棄したから関係ないなんていうことを聞いていたら、商売上がったりである。レモンローンから借金をした人間の何人かは、高い利息と苛酷な取立てで自殺している。自殺されて終りでは商売にならない。
もともと、ちゃんと返してもらおうなんて考えていない。返せなくなった時のことまで考えて貸したいた。今度も、野川の妻がその狙いであった。しかい、思いがけず美人弁護士が来た。それはそれで良い。今日の所は身代わりになって貰おうと、鍬形はとっさに切り替えた。
この古ぼけた三階建てのビルの一室に事務所を構えてはいるが、レモンローンなどという看板を出しているわけではない。もちろん、会社の登記なんかもしていない。何か名前がないと格好が付かないし、契約書を作るときにも困るので、鍬形が勝手につけた名前である。
｢弁護士の先生がなんと言っても貰うものはもらう。だいたい、代理人をよこして、本人が来ないってのはどういう了見なんだ｣
｢いくら呼び出したって、誰も来る必要はなかったのよ。鍬形さんのお仲間がうるさいから、私が来てやったの。それだけでもあり難いと思って。もう言うことはないわ｣
早紀が立ち上がったとたんに、タイトスカートから伸びたすらりとした脚が鍬形の目に入る。薄いベージュのサマースーツがぴしりと決まって、いかにも切れ者のエリートである。
｢それじゃ困る。利息だけでも払っていってもらわなければ。野川の女房じゃなくても先生が払ってくれてもいいんだぜ｣
そんなことを言っている鍬形を無視して向きを変えた早紀の目の前に、三人の男が立って出口を塞いでいた。
｢そこどいて、帰るんだから｣
男達の間を掻き分けるようにした早紀は、そんなことには慣れている男達にあっさりと手首を掴まれてしまった。
｢帰るんなら、ちゃんと利息を払ってからだな｣
振り解こうとした手首に黒革の手かせが巻きつけられた。もう片方の手首もほぼ同時である。残った一人の男は素早く幅広の鞣革のベルトを早紀の目に被せ、頭の後ろでベルトに付いているマジックテープで止めてしまった。柔らかいベルトが目にしっかりと巻きつき、視界を奪われてしまった。早紀は抵抗するにも危なくて動けなくなってしまった。
両手首の革枷が短い鎖でつながれ、手錠を嵌められたようになってしまった。
｢何をするの、ヤメテ！｣
早紀が叫んだ時には、足も押さえられ、両足首を一つにしてボンディングテープがグルグル巻きにされていた。もう歩くことも出来ない。完全に抵抗を抑えられてしまった。その素早さと手際の良さは、男達がこういうことに慣れていることを示している。
｢よし、行くぞ｣
鍬形以外の三人は、担ぎ上げるように早紀を持ち上げた。三人のがっしりした男達の力には、早紀が幾らもがいて暴れても、どうしようもなかった。履いていたパンプスが足先から脱げて、その片方が鍬形を直撃したことが、たった一つの反撃であった。
新しいストーリーを始めました。
相変わらずのご都合主義、色々と矛盾も無理もありますが、お目こぼしの上、ご愛読下さい。
書きながらのアップですので、「あれ、最初と変わっちゃった」と言うこともあるかも知れません。
それも、ご愛敬と見逃して、その場面場面をお楽しみ頂ければ幸いです。
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｢鍬形さん、何度も話しているように、野川さんの奥さんは相続を放棄したのよ｣
｢それが、俺達とどういう関係があるんだい｣
｢野川さんが、鍬形さんのやっているレモンローンやらから借金をしていても、奥さんには返す義務はないの｣
｢そんなことは、知ったこっちゃない。野川の野郎が、会社が潰れちゃうからといって泣きついてきたから貸しただけだ｣
｢それも違法な高い金利でね。それだけでもこの貸借は成立しないわ。これ以上脅迫じみたことをしたら、警察に告訴するわよ。大体貸した貸したといったって、違法な利息を考えれば元金はもう返しきってるでしょう｣
｢とんでもない、日々膨らむ一方さ。ほら、ちゃんと借用書に利息も書いてあって、野川の署名と実印が押してあるだろう｣
｢それは、野川さんが亡くなった時に消滅したのよ。奥さんとは関係ないわ｣
レモンローンの社長をやっている鍬形修造でも、目の前に座ってまくし立てている弁護士の丸茂早紀の言うことは分かり過ぎるくらい分かっている。しかし、相続放棄したから関係ないなんていうことを聞いていたら、商売上がったりである。レモンローンから借金をした人間の何人かは、高い利息と苛酷な取立てで自殺している。自殺されて終りでは商売にならない。
もともと、ちゃんと返してもらおうなんて考えていない。返せなくなった時のことまで考えて貸したいた。今度も、野川の妻がその狙いであった。しかい、思いがけず美人弁護士が来た。それはそれで良い。今日の所は身代わりになって貰おうと、鍬形はとっさに切り替えた。
この古ぼけた三階建てのビルの一室に事務所を構えてはいるが、レモンローンなどという看板を出しているわけではない。もちろん、会社の登記なんかもしていない。何か名前がないと格好が付かないし、契約書を作るときにも困るので、鍬形が勝手につけた名前である。
｢弁護士の先生がなんと言っても貰うものはもらう。だいたい、代理人をよこして、本人が来ないってのはどういう了見なんだ｣
｢いくら呼び出したって、誰も来る必要はなかったのよ。鍬形さんのお仲間がうるさいから、私が来てやったの。それだけでもあり難いと思って。もう言うことはないわ｣
早紀が立ち上がったとたんに、タイトスカートから伸びたすらりとした脚が鍬形の目に入る。薄いベージュのサマースーツがぴしりと決まって、いかにも切れ者のエリートである。
｢それじゃ困る。利息だけでも払っていってもらわなければ。野川の女房じゃなくても先生が払ってくれてもいいんだぜ｣
そんなことを言っている鍬形を無視して向きを変えた早紀の目の前に、三人の男が立って出口を塞いでいた。
｢そこどいて、帰るんだから｣
男達の間を掻き分けるようにした早紀は、そんなことには慣れている男達にあっさりと手首を掴まれてしまった。
｢帰るんなら、ちゃんと利息を払ってからだな｣
振り解こうとした手首に黒革の手かせが巻きつけられた。もう片方の手首もほぼ同時である。残った一人の男は素早く幅広の鞣革のベルトを早紀の目に被せ、頭の後ろでベルトに付いているマジックテープで止めてしまった。柔らかいベルトが目にしっかりと巻きつき、視界を奪われてしまった。早紀は抵抗するにも危なくて動けなくなってしまった。
両手首の革枷が短い鎖でつながれ、手錠を嵌められたようになってしまった。
｢何をするの、ヤメテ！｣
早紀が叫んだ時には、足も押さえられ、両足首を一つにしてボンディングテープがグルグル巻きにされていた。もう歩くことも出来ない。完全に抵抗を抑えられてしまった。その素早さと手際の良さは、男達がこういうことに慣れていることを示している。
｢よし、行くぞ｣
鍬形以外の三人は、担ぎ上げるように早紀を持ち上げた。三人のがっしりした男達の力には、早紀が幾らもがいて暴れても、どうしようもなかった。履いていたパンプスが足先から脱げて、その片方が鍬形を直撃したことが、たった一つの反撃であった。
新しいストーリーを始めました。
相変わらずのご都合主義、色々と矛盾も無理もありますが、お目こぼしの上、ご愛読下さい。
書きながらのアップですので、「あれ、最初と変わっちゃった」と言うこともあるかも知れません。
それも、ご愛敬と見逃して、その場面場面をお楽しみ頂ければ幸いです。
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